会長挨拶
ご挨拶
西澤良記
透析運動療法研究会 会長
日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況」によりますと、導入患者の平均年齢は男性が68.1歳、女性が70.9歳とあります。患者の高齢化も年々進行しており、65歳以上の高齢者は68.1%を占め、透析医療そのものが高齢者医療とみなされうる状況を呈しており、これはわが国が超高齢社会に突入した事実の一つであろうと考えられます。健康寿命の延伸が国の大きな課題となってきており、このことは透析患者さん方にも当てはまります。
フレイルやサルコぺニアといった語がごく日常的に使用されるようになっています。フレイルは健康な状態と要介護状態の中間的な段階として理解されており、体重減少、疲れやすい、歩行速度の低下、握力の低下、身体活動量の低下などの身体的特徴とともに気力の低下などの精神的な変化や社会的な要因も加味されるものです。一方、サルコぺニアは筋肉量の低下に加え、筋力の低下、あるいは身体機能の低下を有する状態です。一般人口では約10%とされているサルコぺニアはCKDステージG2~G3で20%以上、透析患者で30~40%に合併を見るとの報告があります。この課題を乗り切ることが透析患者さんの健康寿命の延伸につながると考えられます。
この課題を克服するためには、前会長の大平先生の言葉にもありますが、1) 十分な透析、2) 適正な食生活、3) 安定した精神状態、そして、4) 継続する適度な運動に集約されると言えます。
KDOQIガイドライン2005において、喫煙、身体活動、精神不安定状態など生活習慣にかかわる領域は健常者においても対処が基本となりますが、透析患者ではこれらの項目がさらに重要度を持ちうることをすでに明記しています。治療者は透析患者の身体活動度を向上させるべきであり、そのための理学療法や心リハビリへの試みに言及しています。運動習慣や運動療法、あるいは運動リハビリは透析患者がより健康的で充実した時間をもつためのツールであり、フレイル、サルコぺニアを抑制しうる治療戦略の一つでもあり、透析療法でのまさに今日的臨床課題が「透析患者の運動療法」であると言えます。
前会長である大平整爾先生のご指導の下、この研究会で従来より積み重ねてこられた業績に敬意を表するとともに、さらになお一層の科学的、学術的検討を踏まえ、透析患者での運動療法がより一般的治療法の一環となることを皆様と共に成し遂げていきたいと考えております。